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大阪地方裁判所 平成2年(行ク)18号 決定 1990年7月17日

申立人

全日本教職員組合協議会

右代表者議長

三上満

被申立人

岸和田市市民会館館長

吉垣内利光

主文

一  被申立人が、平成二年七月二日付けで申立人に対して与えた別紙使用許可処分一覧表記載の岸和田市市民会館の使用許可を、同年七月七日付けで取り消した処分は、当庁平成二年(行ウ)第五五号事件の判決確定に至るまで、その効力を停止する。

二  申立費用は被申立人の負担とする。

理由

一本件使用許可取消処分に至る経緯

本件記録によれば、次の事実が疎明されている。

1  申立人は、都道府県単位の教職員組合をもって組織する教職員組合の連合体である。

2  申立人は、申立人の平成二年七月二三日から二五日までの三日間にわたり開催予定の第二回定期大会会場として使用する目的をもって、平成二年六月二九日、被申立人に対して、岸和田市市民会館の使用許可を申請した。第二回定期大会には、全国から約七〇〇名の組合員の参加が予定されている。

3  被申立人は、七月二日付けで、申立人に対し、別紙使用許可処分一覧表記載のとおり、岸和田市市民会館の使用を許可し(以下「本件許可」という。)、申立人は、同月六日、使用料合計三三万四二〇〇円を全額納付した。

4  申立人の第二回定期大会については、申立人の活動を敵視する右翼団体による妨害が予想されたため、申立人は、六月二九日、大阪府警察本部に赴き、第二回定期大会の円滑な開催と市民会館周辺住民の平穏と安全を確保するために、警察当局による警備を要請した。更に、七月七日、警察会館において、申立人、大阪府警察本部及び岸和田市の各担当者が集まり、申立人の第二回定期大会の警備についての協議が行われた。この席上、申立人は、大阪府警察本部長宛の警備要請書を提出し、同警察本部も申立人に対して、警備上必要な事項について同警察本部と十分な協議を行うことを求め、警備上の要望事項を列記した書面を交付した。

5  申立人の第二回定期大会が岸和田市市民会館で開催される予定であることを察知した右翼団体は、六月二九日ころから、岸和田市役所付近を街宣車で走行したりするなどして、申立人の第二回定期大会「粉砕」等の街宣活動をするようになった。

6  これまでも、申立人や日教組の定期大会、研修会に対しては、右翼団体が多数の街宣車を集合させて抗議行動を行い、そのため、会場周辺の市民生活に少なからぬ悪影響が生じた例が数多く存在する。岸和田市市民会館において申立人の第二回定期大会が行われた場合、これらの例にみられるような右翼団体の抗議行動によって、市民会館周辺の市民生活に重大な悪影響が生じることが予想された。

7  右の5及び6のような事情にかんがみ、被申立人は、本件については、岸和田市市民会館条例一四条三号、七条三、四号の使用許可取消事由が認められると判断し、申立人に対し、七月七日付けの文書をもって、本件許可を取消す旨の処分(以下「本件取消処分」という。)をした。

岸和田市市民会館条例一四条三号は、使用許可の取消事由として、「第七条各号に該当したとき」と規定し、同条例七条は不許可の事由として、三号で「管理上支障のあるとき」、四号で「その他不適当と認めるとき」と規定している。

二効力停止の緊急の必要性について

申立人の第二回定期大会を行うことによる利益は、その思想に基づく言論、集会活動の実現であって、その性質上金銭的補償によって回復することは困難である。加えて、右大会には全国から約七〇〇名に及ぶ組合員が集会することが予定されており、前記一4ないし6の状況の下で、右大会の開催予定日までの間に新たな会場を確保して、開催場所を変更することは事実上不可能である。したがって、本件取消処分の効力を停止すべき緊急の必要性があると解される。

三本案の理由について

被申立人は、本件については、岸和田市市民会館条例一四条三号、七条三、四号の使用許可の取消理由があるから、本件取消処分は適法であり、本件申立は、本案について理由がないとみえるときに該当すると主張する。

しかし、公の施設の管理について定めた地方自治法二四四条の趣旨や、岸和田市市民会館条例一四条は、使用者に生じた損害の賠償義務を負わない許可の取消を定めた規定であることにかんがみるならば、同条例一四条三号、七条三、四号の規定は、会館使用者の会館使用目的や使用の形態等が市民会館設置の趣旨に反し、市民会館自体の管理上、支障ないし不適当な事情が生じるおそれがある場合に使用許可を取り消し得ることを規定したものと解するのが相当である。

会館使用者が会館を使用して開催する集会や言論活動等を敵視する団体による違法、不当な妨害活動によって、会館周辺の市民生活に混乱が生じるおそれがあるなどの事情があったとしても、このような妨害行為に対しては、警察当局の適切な警備が行われるべきであって(現に、申立人は、大阪府警察本部に対して警備の要請を行い、具体的な協議も行っている。)、右のような事情があるからといって、使用許可の取消事由に該当するとは解し得ない。

したがって、本件申立が、本案について理由がないとみえるときに該当すると主張するとの被申立人の主張は認められない。

四公共の福祉に対する影響について

既に認定説示したところによれば、本件取消処分の効力停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあると認めるに足りる疎明もないことが明らかである。

五結論

よって、行政事件訴訟法二五条により、本件取消処分の効力を停止することとし、申立費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官井関正裕 裁判官綿引万里子 裁判官和久田斉)

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